私が局所性ジストニアの定位脳手術を受けようと思った理由

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音楽家のジストニア、局所性ジストニアの治療方法である「定位脳手術」を受けることを相談するために、以前にもかかった榊原白鳳病院の神経内科の目崎先生のところへ行ってきました。
局所性ジストニア発症して、もうすぐ2年。定位脳手術の存在を知りながらも、さまざまな理由から私は選択しませんでした。しかし、最近思うことがあり、定位脳手術を検討し始めることになりました。定位脳手術を受けるにあたっての正しい知識を共有できたらと思います。

以下の5つの項目に分けて、定位脳手術に関することを書いていきます。

・定位脳手術とは
・定位脳手術を受けるには
・定位脳手術の費用

定位脳手術のリスク
・定位脳手術を受けようと思った理由

定位脳手術とは


定位脳手術は、脳の中の特定の構造物をターゲットとして、そこへ電極を留置して治療を行う方法のことです。

東京女子医科大学HPより

近年、局所性ジストニアの治療のひとつとして、定位脳手術が用いられています。現在、局所性ジストニアの改善がもっとも期待できる治療だと言われています。

定位脳手術は2種類あり、
・電極を留置して熱凝固を行う「凝固術
・持続的に電気刺激を行う「脳深部刺激療法」局所性ジストニアの手術には前者がおこなわれることが多いとのことでした。後者は主にパーキンソン病の方に用いられる手術だそうです。

・凝固術のメリットとデメリット
1回の治療で治療を完結できる◎
組織破壊を行うので不具合が起きた時も取り返しがつかない△


・脳深部刺激療法のメリットとデメリット
組織破壊をせずに治療効果が得られるため、不可逆的な変化を起さずに治療効果を得ることができる◎
体内に機会を埋め込むので、機械の不具合や感染症、バッテリー交換、MRI撮影が困難、飛行機の保安検査で引っかかる、など△

以上の理由から、わたしのような若い患者さんには脳深部刺激療法をおすすめしないと目崎先生はおっしゃっていました。局所性ジストニアの手術の事例も多く、定位脳手術の凝固術をおこなっている東京女子医科大学の平先生という方をご紹介していただくことになりました。



定位脳手術を受けるには


東京女子医科大学の脳神経外科の平先生の診療を受けるには紹介状が必要です。
私は12月頭に紹介状を書いてもらい、その場ですぐに病院から連絡をしてもらいましたが、平先生の診療の予約ができたのは2月半ばでした。その日が最短の日だと言われたので、予定が合わせられないともう少し遅くなるということでしょう。


東京女子医科大学で診療を受け、手術を受けられると診断を受けて、手術の予約をするという流れだそうです。先生いわく、最近の様子を見ていると、手術は夏頃になると思いますとのことでした。
平先生の定位脳手術を受けるには、紹介状を書いてもらってから半年以上はかかるということです。


ちなみに、榊原白鳳病院の目崎先生の診療を受けるのにも紹介状が必要でした。私のクラリネットの生徒さんの同級生の方が医師で、この辺りで音楽家のジストニアに1番詳しい方だと言ってご紹介状を書いて下さりました。目崎先生とゆっくりお話をさせていただいた時間は、自分自身と向き合って治療の方針を決めていけることができるとても大切なものになりました。


ジストニアの治療のために他にもいろいろなところへ出向きましたが、話を聞いてもらえなかったり、傷つくことを言われたりすることが多く、そんなことに疲れ切っていた私にとって、目崎先生との出会いはとてもありがたいことでした。

ジストニアを治療するにあたって、信頼できる相談相手が必要だと思いました。それは、医師でなくて家族かもしれませんし、先生や友達かもしれません。理解してもらえているようで、なかなかうまく理解してもらえないジストニアという病気について、どんな距離感の人でも良いので信頼できる相手が一人存在するだけで、心が少し軽くなると思います。

定位脳手術の費用


費用の面が心配でした。定位脳手術の費用は高額という情報をインターネット上で見ていたため、私には払えない額なのではないか?という不安がありました。以下、その質問に対する答えです。


「もともとは150万円くらいかかる手術。しかし、保険適用で45万円くらい高額医療制度を利用したら実質負担額は15万円くらい(その人の収入による)」

だそうです。手術前に高額医療の申請をおこなっていれば、立替の必要もなく、初めから支払う金額が15万円くらいですむそうです。

定位脳手術のリスク

定位脳手術は、頭蓋骨に穴を開け、脳に刺激を与えます。日常生活には支障をきたさない音楽家のジストニアである局所性ジストニアにそこまで、危険な大掛かりな手術をおこなう必要があるのかということはさまざまなところで議論されているかと思います。

また、「本当にジストニアが改善されるのか」「後遺症などが残るのではないか」といった疑問が誰しも起こると思います。その2点についてもお答えいただきました。

・「本当にジストニアが改善されるのか」
東京女子医科大学で手術を受けた方に、改善に対して評価を5段階で示してもらったところ、95パーセントの方が4.5以上と答えたそうです。

・「後遺症などが残るのではないか」
重度、軽度問わず、後遺症などが出た方は全体の3%。

術後3か月以内に症状が再発し、再手術になるケースはあるとのことでした。(2017年の平先生のインタビューでは10人に1人と書いてありました)しかし、術後3か月後まで安定したのちの再発は、ほとんどないとのことでした。



定位脳手術を受けようと思った理由


それは、どうしても治したいからです。楽器が演奏できないだけで、リスクを伴う手術をおこなう必要があるのか?と自分に問いかけ続けていました。精神的に追い詰められているから、適切な判断ができなくなっているのではないか?となんども自分自身と対話をしました。しかし、何度考えても私の人生から楽器を取り上げることはできず、仕事をするにあたっても、回復は必須なことだという結論しか出ませんでした。


私はジストニアを発症していると診断を受け、1年間楽器の仕事をお休みして、1年後に復帰できるように治療しようと決めました。何をもって1年と決めたのかは今となっては謎です。そのくらい局所性ジストニアについてわかっていませんでした。リハビリ治療で症状を緩和することができていたので、その調子で完全に治ると思っていました。

リハビリ治療の結果少しずつ演奏できるようになり、一応有言実行で1年後から少しずつコンサートをしていくようになりました。
リハビリ治療で症状を和らげること
ジストニアの症状がでないような方法で演奏する
このふたつをおこないながら、なんとか騙し騙し活動をおこなってきました。


半年前にはソロのリサイタルもおこない、最近ではオーケストラでも演奏しました。
しかし、どうしてもできないテクニックがあるのです。それがジストニアのせいだとは思わないよう思わないようにしていましたが、ある時気づいてしまったのです。
「演奏できるようにはなっているけど、根本的にジストニアの症状はとれていない。」
ということに。いや、本当は気付いていました。しかし見ないようにしていたのです。


そんなときに、前にかかっていた榊原白鳳病院の目崎先生の言葉を思い出したのです。
「治療は自分自身が納得しておこなうものです。治療をステップアップさせるのに適した時期というのは、自分がそうしたいと思ったときです。」
目崎先生は、ご自身の意見を言うことがあっても、なにかを強制したり強く勧めたりはしない方です。1年ほど前に、はじめて目崎先生の診察を受けた時、私は定位脳手術をおこなわないつもりでした。先生は冷静にジストニアの治療の方法と可能性を提示してくださりました。
定位脳手術のことはずっと知っていました。しかし、そのリスクや、周りの反対、手術への恐怖から自分の中で除外して、考えないようにしていました。


定位脳手術は、現在おこなえる治療法の中でもっとも改善の確率が高い治療です。私は2年近くかけてやっと、定位脳手術を受けようという思いになりました。もっと早く決断できなかったのか、と後悔しそうになったこともありましたが、このジストニアと試行錯誤した時間は必要な時間でした。


定位脳手術の結果、すぐに楽器が上手に吹けるというわけではないことはわかっています。手術を受けた方が、術後のリハビリに苦労している姿は知っています。しかし、ジストニアを治さない限り、この先に行くことも、このまま演奏を続けることさえもあまりにも苦しいと思ったのです。もう、どんな結果になっても後悔しないと思います。それは、勢いではなく、手術に踏み切る気持ちになれた、これまでの時間のおかげだと思っています。最終的に手術をおこなうかどうかは、平先生の診察を受け、相談を重ねてから決断しようと思います。



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