音楽家のジストニア

ザ!世界仰天ニュースに登場ギタリストを襲うジストニアとは?【局所性ジストニアの手術の話】

2020年3月3日に放送のザ!世界仰天ニュースで、ギタリストを襲うジストニア(局所性ジストニア、フォーカルジストニア)について紹介されるそうです。

日常生活ではなんの異常もないのに、楽器を演奏しているときにだけ、指などが動かなくなってしまう、簡単に言ってしまうと職業病のようなものです。しかし、近年多くのピアニストやギタリストがジストニアの症状に悩まされています。

他の楽器でもドラマーでAlexandrosの庄村聡泰さんがフォーカルジストニアによって、バンドを勇退することになったニュースは記憶に新しいですね。

今回、ザ!仰天ニュース取り上げられていたギタリストはERIKAさんという方のようです。

局所性ジストニアの手術のご報告。ERIKAさんのLINEBLOGより

私も約2年前、音楽家のジストニアを患いました。音楽家のジストニアについては、以前こちらの記事に詳しく書きましたのでご覧ください。

ジストニアの手術は最終手段

ザ!世界仰天ニュースでギタリストがジストニアの外科手術を受けたということが紹介されていました。ジストニアの手術、定位脳手術は最終手段と考えておくのがよいでしょう。この理由として、ふたつあげられます。

リスクがある

当たり前のことですが、手術にがリスクがつきものです。先生の成功確率が高かったとしても、人によって不具合を起こすか可能性はゼロではありません。リスクをとる覚悟がないのでしたら、音楽家のジストニアを手術による治療で治すことをおすすめしません。

こちらの方のnoteによれば、「手術によって起こる全てのことを受け入れる気がなければ、手術は受けない方がいい」病院でこのように言われたそうです。本当にその通りです。

私は今年の夏ごろに手術予定なので、先日、平先生の外来を受けました。

そこで、手術の成功実績を聞いてきました。お話を聞いた後、記憶をたぐってメモをとったので、正確な数字か自信がないのでここに書くことは差し控えますが、「改善度は人によるのだな」という感想でした。そして、平先生のお話や実績から判断すると、手術の失敗というリスクは考えすぎる必要はないかもしれないと思いました。

みんながみんな100%改善するわけではない

局所性ジストニアの定位脳手術による改善度は、人によるそうです。手術を受けたからといって魔法のように指などが動くようになるわけではありません。改善度が仮に、80%だとしたら、満足できますか?私は正直、わかりません。

しかし、音楽家にとって楽器演奏が思うように演奏できないのは死活問題です。なんとかして治したいと思う気持ちは痛いほどよくわかります。

局所性ジストニア(フォーカルジストニア)の治療法は、確率していない

局所性ジストニア(フォーカルジストニア)の治療法はさまざまな方法が提唱されていますが、どれも効果がはっきりと出る保証がなく「治療法は確立されていない」というのが現実です。

だからこそ、テレビでも取り上げられていた、一度で効果のある定位脳手術は魅力的なもののように思えるのでしょう。

局所性ジストニア(フォーカルジストニア)になってしまった音楽家は治療を目指すのであれば自身で、治療法を選びとらなけばいけない時代となっているのかもしれません。

この記事を書いた人も2年前から局所性ジストニアを患っています

実はつい先日、東京女子医大脳外科の平先生の外来に行ってきました。

外来にたどり着くまでの期間や経緯はこちらにまとめてあります。

これはまだ外来に行く前に書いたものです。

まとめ

ザ!世界仰天ニュースでギタリストを襲うジストニアという病気が紹介されました。この局所性ジストニア治療法は確立されていません。現在医学的方法で即効性があり、効果が期待できるものは、仰天ニュースでもご紹介されていた「定位脳手術」という外科手術です。手術というものにリスクはつきものです。改善度は人によって異なるそうです。

医療の進歩は素晴らしいです。しかし、私の立場からあまり大きな声では言えませんが、「ジストニアになった、だから手術を受けよう」という思考に欠けた行動は避けたいものですね。


どうして弾けなくなるの? <音楽家のジストニア>の正しい知識のために

こちらは音楽家のジストニアを学ぶ上で、日本語で出版されているものの中では1番有効な書籍だと思います。

フォーカルジストニアは完治することができるのか

職業性のジストニア、フォーカルジストニア(局所性ジストニア)とは、ある一定の動作の動きをしようとしたときに、身体の一部が思い通りに動かずに固まってしまったり、震えてしまったりする病気です。

フォーカルジストニアは、楽器演奏に支障をきたすものとして、近年多くの音楽家が苦しんでいます。

フォーカルジストニアの基本的なことについてはこちらの記事でご紹介しています。
ミュージシャンのジストニアという病気について

明確な治療法が確立されていないフォーカルジストニアは、完治することができるのでしょうか

手術によって完治した人や、長年のリハビリ治療によって完治したという人を聞いたことがあります。
また、あるとき突然治ってしまった人がいるという話も専門家の先生から聞きました。

しかし、それは一部の人です。
多くのフォーカルジストニア患者は長年症状に苦しみながらなんとか楽器を演奏したり、演奏家としての道を絶ってしまったりしています。

フォーカルジストニアは自身の意思や努力に応えてくれるように完治することができる病気ではありません。

この記事ではクラリネット奏者であった私がフォーカルジストニアになってからのことを綴っていきます。

主観的になってしまいますが、実際に起きたことや感じたことを詳細にお伝えすることによって、フォーカルジスニアの現実を知る手助けになれたらと思います。

さまざまな改善方法を試した結果として、私のフォーカルジストニアの症状は徐々に軽減していきました
しかし、今現在でも完治はしていません

・フォーカルジストニア発症
・フォーカルジストニアの症状の緩和
・フォーカルジストニアの完治を目指した結果

以上の項目にわけて、私がフォーカルジストニアの完治を目指していった過程をお伝えしていきます。

フォーカルジストニア発症

私はクラリネット奏者として生活をしていましたが、今から約2年前にフォーカルジストニアの診断を受けました。

当時の私は、フォーカルジストニアの存在を知らず、診断の1年ほど前から「なんか指が回らないな」という気付きはありましたが、自分がフォーカルジストニアだと自覚するまでに時間がかかってしまいました。

結果として、「指が明らかにおかしい」と気付いたときには、左手の小指が全く機能しなくなるほど、ひどい状態になっていました。

フォーカルジストニアは、突然発症する人もいますが、少なからず前触れがあることが多いです。

当時の状態では、これまでに自分がおこなっていた演奏活動を続けることは不可能でした。
レッスンの仕事と一部の演奏の仕事を除いた全ての本番をキャンセルせざるをえませんでした。

「演奏活動を休止して、1年後に復帰します!」
と高らかに宣言していました。
何を根拠に1年と言っていたかは覚えていませんが、このときの私はフォーカルジストニアが1年で完治すると思っていました。

さまざまな治療法を調べ、フォーカルジストニア完治へ向けての日々が始まりました。

フォーカルジストニアの症状の緩和

フォーカルジストニアの症状が緩和していったきっかけはいくつかあります。
主に以下の3つのことがあげられます。

フォームの改善
症状の出る仕組みを理解
感覚再起のリハビリ(SMR治療)

フォームの改善

改善への大きなきっかけは4スタンス理論に出会ったことでした。

4スタンス理論とは、“身体の使い方によって人は4つのタイプに分かれ、自分のタイプにあったフォームや動きをすることでパフォーマンスを効率よく最大限に生かす ”といった理論です。

4スタンスを提唱している整体「廣戸道場」でタイプ診断と、自分にあった楽器の構え方の指導を受けました。

フォーカルジストニアになる以前の私のフォームは、自分の身体の特性にあっていないものでした。
自分の身体にあったフォームに改善をすることで、自然に指が動きやすい形を見つけることができました。

結果として、ジストニアの症状は軽減しました
自分にとっての正しい身体の使い方を理解し、ジストニアの症状がひどく出るフォームを回避することができるようになったからです。

4スタンス以外にも、ジストニアの研究をされているイザベル・カンピオン先生の講座を受けたことも、フォーカルジストニアの改善に有益な経験でした。

イザベル先生の講座で、より深く身体の仕組みについて理解することができました。
肩甲骨をしっかり使うことによって、指の動きまで改善するということを知ることができ、イザベル先生に教わった肩甲骨のストレッチは毎日おこなっています。

症状の出る仕組みを理解

私の場合は、「左手の小指が丸まってしまってうまく動かない」いうのが主な症状です。
しかし、小指だけ動かすとほぼ問題なく動くのです。
クラリネットを構えて、左手の薬指をおさえたときのみ、小指が動かなくなります。

フォーカルジストニアの特徴として、ある一定の動作のときにのみ指などが思い通りに動かなくなるということがあります

ジストニアの症状が出はじめると、どんどん指が丸まってしまってしまうので、できるだけ症状がでない方法で演奏をするようしていました

根本的な解決にはなりませんが、左手の小指を浮かせていると震え丸まりなどの症状が出てしまうので、左手の小指はキーの上にそっと置いておくようにしました。

フォーカルジストニアの症状がこれ以上ひどくならないようにすることによって、コツコツと少しずつできることを増やしていきました。

感覚再起のリハビリ

実際にフォーカルジストニアの症状の改善が叶ったのは「SMR治療(Sensory motor returning)」と呼ばれるリハビリ治療のようなもののおかげだったと思います。

音楽家のフォーカルジスニアは、症状がなくなって治るということは考えづらいです。
悪いものがとれるて治る、のではなく、新しい感覚を身体に覚えさせるといった方向で治療をしていくのが良いということに気づきました。


フォーカルジストニアでは、「症状を引き起こしている指」を固定すると、「症状が出ている指」が動くようになるのです。
言い方を変えると、「症状を引き起こしている指」のせいで、隣の指に症状が出てしまっているのです。

フォーカルジストニアは「症状が出ている指」と「症状を引き起こしている指」があります。
SMR治療の特徴は、「症状が出ている指」を自由に動かすために、「症状を引き起こしている指」を固定します。

このように突き指を固定する器具を使用して「症状を引き起こしている指」を固定しています。

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感想(7件)

この治療は指を固定する道具さえあれば、自分でおこなうことができます。

SMR治療を指定された期間おこなうことによって、何も吹けなかった頃の指の状態から回復することができました。

このほかにも、
・整形外科への数回通院(リハビリの方法を習う)
・カイロプラクティック
・神経科への相談

などさまざまな治療を試しました。特定の病院に通院することはせず、毎日の身体の使い方の改善やSMR治療によって、フォーカルジストニアの症状を回復させていきました。

フォーカルジストニアの完治を目指した結果

これまでにご紹介した方法で、フォーカルジストニアの症状は完治とは言えないまでも、著しく改善していきました。


フォーカルジストニアの診断を受けてから1年後には、小さなコンサートに出演、その半年後にはソロのリサイタルをおこないました。


しかし、ソロのリサイタルの練習の最中、どうしてもできない運指のテクニックがいくつもあり、「やはり完治はしていないんだ」という現実に直面しました。

その数ヶ月後にオーケストラの仕事を引き受けたときに、絶望を味わうことになります。

何度本番をおこなっても、やはり、同じ箇所の指の動きができない。
オーケストラの仕事で音がかけてしまうのはあり得ません。


なんとかして指を動かそうとした結果、フォーカルジストニアの症状がまたひどく出るようになってしまいました

症状を抑える術をたくさん覚えても、フォーカルジストニアの根本的な解決はしていないんだ。」
これ以上の症状の改善は望めない。完治は不可能なのではないか。

それは、フォーカルジストニアになったことが発覚した時と同じくらい、またはそれ以上に深い絶望でした。
ここではじめて、「フォーカルジストニアである自分自身を受け入れられていない」ことに気づきました。

フォーカルジストニアになる以前と同じような活動に戻ることを、どこかで夢見ていました。

しかし、フォーカルジストニアを持った自分を受け入れて、できることをしていくしか楽器を続ける方法はない。
その事実を受け入れるのはとても辛かったです。

日本ではフォーカルジストニアの外科手術が存在します。私は、手術はおこなわないと心に決めていたのですが、この絶望を受けて、手術を検討するようになりました。 

私が局所性ジストニアの定位脳手術を受けようと思った理由

正直、手術には抵抗がありました。
手術だけが、完治の道とは思っていません。

しかし、後悔しない覚悟があるのならば、フォーカルジストニアの完治に近づく方法のひとつである手術を受けるという選択肢もあります。

何年もかけてフォーカルジストニアが完治した、という話を聞いたことがあります。
しかし、音楽家としての仕事を十分にできないまま数十年後に完治したところで、何が待っているのでしょうか。
練習を止めたら、もう戻らない技術も、仕事もあるのは事実です。

多くの音楽家が完治まで待てずに、治療を止めてしまう理由が今はよくわかります。

フォーカルジストニアの状態では最低限の演奏技術を維持していくことでさえ、困難だと思います
仕事が十分にできなく、生活も変わります。日々の手の調子によって左右され、練習をしても、技術が積み重なっていくことは難しいです。

フォーカルジストニアになってしまったら、病気とどのように付き合って生きていくのか、何度も自分と向き合って生きていかなければなりません。

まとめ

フォーカルジストニアの完治は難しいです。

クラシックの演奏家として活動する以上、できない運指や、できない音の並びがある状態で仕事をしていくのは困難です。聴いている人が大丈夫といっても、なんとか演奏できている裏には、ジストニア患者本人の身体の無理と激しい心への負担がかかっています。

私の主治医の神経科の先生もおっしゃっていましたが、フォーカルジストニアとは正面から向き合うのではなく、一緒に過ごすくらいの気持ちで付き合うのが良いでしょう。
向き合えば向き合うほど、うまくいかないのがフォーカルジスニアです。

フォーカルジストニアが治らないという現実について受け入れられてからが、本当の完治への道かもしれません。

私が局所性ジストニアの定位脳手術を受けようと思った理由

音楽家のジストニア、局所性ジストニアの治療方法である「定位脳手術」を受けることを相談するために、以前にもかかった榊原白鳳病院の神経内科の目崎先生のところへ行ってきました。
局所性ジストニア発症して、もうすぐ2年。定位脳手術の存在を知りながらも、さまざまな理由から私は選択しませんでした。しかし、最近思うことがあり、定位脳手術を検討し始めることになりました。定位脳手術を受けるにあたっての正しい知識を共有できたらと思います。

以下の5つの項目に分けて、定位脳手術に関することを書いていきます。

・定位脳手術とは
・定位脳手術を受けるには
・定位脳手術の費用

定位脳手術のリスク
・定位脳手術を受けようと思った理由

定位脳手術とは


定位脳手術は、脳の中の特定の構造物をターゲットとして、そこへ電極を留置して治療を行う方法のことです。

東京女子医科大学HPより

近年、局所性ジストニアの治療のひとつとして、定位脳手術が用いられています。現在、局所性ジストニアの改善がもっとも期待できる治療だと言われています。

定位脳手術は2種類あり、
・電極を留置して熱凝固を行う「凝固術
・持続的に電気刺激を行う「脳深部刺激療法」局所性ジストニアの手術には前者がおこなわれることが多いとのことでした。後者は主にパーキンソン病の方に用いられる手術だそうです。

・凝固術のメリットとデメリット
1回の治療で治療を完結できる◎
組織破壊を行うので不具合が起きた時も取り返しがつかない△


・脳深部刺激療法のメリットとデメリット
組織破壊をせずに治療効果が得られるため、不可逆的な変化を起さずに治療効果を得ることができる◎
体内に機会を埋め込むので、機械の不具合や感染症、バッテリー交換、MRI撮影が困難、飛行機の保安検査で引っかかる、など△

以上の理由から、わたしのような若い患者さんには脳深部刺激療法をおすすめしないと目崎先生はおっしゃっていました。局所性ジストニアの手術の事例も多く、定位脳手術の凝固術をおこなっている東京女子医科大学の平先生という方をご紹介していただくことになりました。



定位脳手術を受けるには


東京女子医科大学の脳神経外科の平先生の診療を受けるには紹介状が必要です。
私は12月頭に紹介状を書いてもらい、その場ですぐに病院から連絡をしてもらいましたが、平先生の診療の予約ができたのは2月半ばでした。その日が最短の日だと言われたので、予定が合わせられないともう少し遅くなるということでしょう。


東京女子医科大学で診療を受け、手術を受けられると診断を受けて、手術の予約をするという流れだそうです。先生いわく、最近の様子を見ていると、手術は夏頃になると思いますとのことでした。
平先生の定位脳手術を受けるには、紹介状を書いてもらってから半年以上はかかるということです。


ちなみに、榊原白鳳病院の目崎先生の診療を受けるのにも紹介状が必要でした。私のクラリネットの生徒さんの同級生の方が医師で、この辺りで音楽家のジストニアに1番詳しい方だと言ってご紹介状を書いて下さりました。目崎先生とゆっくりお話をさせていただいた時間は、自分自身と向き合って治療の方針を決めていけることができるとても大切なものになりました。


ジストニアの治療のために他にもいろいろなところへ出向きましたが、話を聞いてもらえなかったり、傷つくことを言われたりすることが多く、そんなことに疲れ切っていた私にとって、目崎先生との出会いはとてもありがたいことでした。

ジストニアを治療するにあたって、信頼できる相談相手が必要だと思いました。それは、医師でなくて家族かもしれませんし、先生や友達かもしれません。理解してもらえているようで、なかなかうまく理解してもらえないジストニアという病気について、どんな距離感の人でも良いので信頼できる相手が一人存在するだけで、心が少し軽くなると思います。

定位脳手術の費用


費用の面が心配でした。定位脳手術の費用は高額という情報をインターネット上で見ていたため、私には払えない額なのではないか?という不安がありました。以下、その質問に対する答えです。


「もともとは150万円くらいかかる手術。しかし、保険適用で45万円くらい高額医療制度を利用したら実質負担額は15万円くらい(その人の収入による)」

だそうです。手術前に高額医療の申請をおこなっていれば、立替の必要もなく、初めから支払う金額が15万円くらいですむそうです。

定位脳手術のリスク

定位脳手術は、頭蓋骨に穴を開け、脳に刺激を与えます。日常生活には支障をきたさない音楽家のジストニアである局所性ジストニアにそこまで、危険な大掛かりな手術をおこなう必要があるのかということはさまざまなところで議論されているかと思います。

また、「本当にジストニアが改善されるのか」「後遺症などが残るのではないか」といった疑問が誰しも起こると思います。その2点についてもお答えいただきました。

・「本当にジストニアが改善されるのか」
東京女子医科大学で手術を受けた方に、改善に対して評価を5段階で示してもらったところ、95パーセントの方が4.5以上と答えたそうです。

・「後遺症などが残るのではないか」
重度、軽度問わず、後遺症などが出た方は全体の3%。

術後3か月以内に症状が再発し、再手術になるケースはあるとのことでした。(2017年の平先生のインタビューでは10人に1人と書いてありました)しかし、術後3か月後まで安定したのちの再発は、ほとんどないとのことでした。



定位脳手術を受けようと思った理由


それは、どうしても治したいからです。楽器が演奏できないだけで、リスクを伴う手術をおこなう必要があるのか?と自分に問いかけ続けていました。精神的に追い詰められているから、適切な判断ができなくなっているのではないか?となんども自分自身と対話をしました。しかし、何度考えても私の人生から楽器を取り上げることはできず、仕事をするにあたっても、回復は必須なことだという結論しか出ませんでした。


私はジストニアを発症していると診断を受け、1年間楽器の仕事をお休みして、1年後に復帰できるように治療しようと決めました。何をもって1年と決めたのかは今となっては謎です。そのくらい局所性ジストニアについてわかっていませんでした。リハビリ治療で症状を緩和することができていたので、その調子で完全に治ると思っていました。

リハビリ治療の結果少しずつ演奏できるようになり、一応有言実行で1年後から少しずつコンサートをしていくようになりました。
リハビリ治療で症状を和らげること
ジストニアの症状がでないような方法で演奏する
このふたつをおこないながら、なんとか騙し騙し活動をおこなってきました。


半年前にはソロのリサイタルもおこない、最近ではオーケストラでも演奏しました。
しかし、どうしてもできないテクニックがあるのです。それがジストニアのせいだとは思わないよう思わないようにしていましたが、ある時気づいてしまったのです。
「演奏できるようにはなっているけど、根本的にジストニアの症状はとれていない。」
ということに。いや、本当は気付いていました。しかし見ないようにしていたのです。


そんなときに、前にかかっていた榊原白鳳病院の目崎先生の言葉を思い出したのです。
「治療は自分自身が納得しておこなうものです。治療をステップアップさせるのに適した時期というのは、自分がそうしたいと思ったときです。」
目崎先生は、ご自身の意見を言うことがあっても、なにかを強制したり強く勧めたりはしない方です。1年ほど前に、はじめて目崎先生の診察を受けた時、私は定位脳手術をおこなわないつもりでした。先生は冷静にジストニアの治療の方法と可能性を提示してくださりました。
定位脳手術のことはずっと知っていました。しかし、そのリスクや、周りの反対、手術への恐怖から自分の中で除外して、考えないようにしていました。


定位脳手術は、現在おこなえる治療法の中でもっとも改善の確率が高い治療です。私は2年近くかけてやっと、定位脳手術を受けようという思いになりました。もっと早く決断できなかったのか、と後悔しそうになったこともありましたが、このジストニアと試行錯誤した時間は必要な時間でした。


定位脳手術の結果、すぐに楽器が上手に吹けるというわけではないことはわかっています。手術を受けた方が、術後のリハビリに苦労している姿は知っています。しかし、ジストニアを治さない限り、この先に行くことも、このまま演奏を続けることさえもあまりにも苦しいと思ったのです。もう、どんな結果になっても後悔しないと思います。それは、勢いではなく、手術に踏み切る気持ちになれた、これまでの時間のおかげだと思っています。最終的に手術をおこなうかどうかは、平先生の診察を受け、相談を重ねてから決断しようと思います。



ミュージシャンのジストニアという病気について

ミュージシャンのジストニアは、指や手首が固まったり丸まったりしてしまい、思うようにコントロールができなくなり、楽器の演奏に支障をきたすという病気です。

熟練のミュージシャンに現れることが多い病気で、プロのミュージシャンの100人に1人がジストニアにかかっているというデータがあります。ミュージシャンのジストニアは、絶対的な治療法が確立されていないことから難治病といわれています。

ミュージシャンのジストニアは筋肉や骨に特別な異常は見つからず、はっきりとした原因は不明だと言われています。

動作異常は楽器の演奏時にのみあらわれ、日常生活には支障をきたしません。しかし、楽器を演奏することを生業としているミュージシャンにとって、楽器の演奏が思うようにできなくなることは、命を奪われるような心地でしょう。

ミュージシャンである筆者も、ジストニアを発症しています。この記事では、ミュージシャンのジストニアについて、経験談も踏まえて正しい知識をお伝えしていきます。



ミュージシャンのジストニアとは

ミュージシャンのジストニアは、指や喉などの身体の一部に症状が現れることから、「局所性ジストニア」または「フォーカルジストニア」と呼ばれています。

ミュージシャンのジストニアは神経疾患のひとつです。症状としては、動かそうとする筋肉と相反する動作をおこなう筋肉(拮抗筋)が同時に収縮を繰り返すことにより、異常動作が起き、自分の意思通りに指などが動かなるというものです。

脳が指令を出し、それに筋肉が反応するといった訓練が繰り返され、楽器の演奏技術は身についていきます。超絶技巧が可能になる仕組みは、脳の指示と筋肉のワイヤリング(回路のつながり)がキーポイントとなっています。

ミュージシャンのジストニアは、なんらかの間違った形でワイヤリングされた結果として、異常な動作が起きると言われています。

・具体的な症状
筆者の場合(クラリネット)、左手の薬指を抑えると、小指がこわばってしまい、自分が思うキーを抑えられないという症状があります。楽器を持たないで同じ動作をしても、異常は起こりません。ミュージシャンのジストニアの患者の特徴として、楽器を持たずにその動作をおこなっても異常動作が起きないということがあります。

・発症の原因
発症の原因は特定されていませんが、ジストニアになるミュージシャンは、高いレベルでの集中的な練習を長時間おこなっていることがほとんどです。


私自身もそうでしたが、ジストニアの症状が現れはじめたとき、多くのミュージシャンは「うまく演奏できないのは自分の練習不足が原因」だと思って練習時間を増やしたり、一箇所をなんども繰り返して集中的に練習したりしてしまいます。
しかし、ジストニアが原因の場合、そういった過剰な練習は逆効果で、症状をひどくさせる原因のひとつとなってしまいます。

ミュージシャンのジストニアの治療法

ミュージシャンのジストニアは、この治療をおこなったら絶対に治ります!という治療法がありません。多くのジストニアのミュージシャンはこの事実に絶望してしまうでしょう、しかし、現在さまざまな治療法が考えられています。

【ミュージシャンのジストニアは何科にかかれば良い?】
ジストニアは脳神経の疾患なので、神経科が専門となるでしょう。しかし、様々な分野からミュージシャンのジストニアの治療法が考案されているので、神経科以外にも、整形外科などでもジストニアの治療をおこなっているところがあります。

ミュージシャンのジストニアの治療法には以下のものがあります。
・内服薬
・リハビリ類
・ボツリヌス注射
・脳への電気刺激
・外科手術

いずれの治療法も、確実に治るというものではありませんが、ジストニアを完治した人はいます。焦ることなく治療に対して向き合うことが大切です。

ジストニア発症の原因が、無理なフォームで演奏していたことからくる局所への負担だということは多いです。病院に通うだけが治療ではなく、楽器演奏時の身体の使い方を見直すこともジストニアの症状を和らげるには必要なことだと考えられています。

ジストニアを公表している著名なミュージシャン

最近、著名なミュージシャンがジストニアにより活動を休止せざるをえない状況になってしまったというニュースをよく目にします。完治した方も含め、以下の方々はジストニアを公表されている著名なミュージシャンです。(敬称略。wikipediaより引用。)

  • IMAJO(サイキックラバー)  ギタリスト
  • 金子隆博(米米CLUB)  サクソフォーン奏者
  • 熊谷徳明(元カシオペア・TRIX) ドラマー
  • 小渕健太郎(コブクロ) 歌手、ギタリスト
  • 白鳥雪之丞(氣志團) ドラマー
  • 田中義人  ギタリスト
  • 山口智史(RADWINPS) ドラマー
  • 庄村聡泰 ([ALEXANDROS])  ドラマー
  • 田島智之 (元Aqua Timez) ドラマー
  • YOSHIAKI(175R) ドラマー

以上の方々はほんの一部で、ほかにもジストニアに苦しむミュージシャンはたくさんいます。

私がジストニアを公表したときに、たくさんの励ましのお言葉をいただいたのですが、その中で「実は自分もジストニアです」「公表していないけれど、あの方もジストニアなのでアドバイスをもらえると思います」といったことをたくさん聞きました。

自分がジストニアになってはじめて、ジストニアに苦しむミュージシャンはたくさんいるということを知りました。

ジストニアのミュージシャンの精神状態

ミュージシャンのジストニアは精神的なストレスからくるものと言われていますが、立派な身体の病気です。

もう一度言います。ミュージシャンのジストニアは病気です。

命に別状がなく、日常生活は問題なくおこなえることから、ミュージシャンのジストニアは重大な病気だという理解を得られないこともあります。

しかし、楽器を使って音楽を奏でることを生業、そして生きがいにしているミュージシャンにとって、思うように楽器演奏ができないことは命をも奪われた心地です。

治療法が確立していない、そして長期に渡ることが多いことから、治療のゴールが見えず、精神的にまいってしまうミュージシャンも少なくありません。

近年はインターネット上で知識を得られるようになり、ミュージシャンのジストニアについての情報も多くなってきています。

一方で、間違った見解や確かではない情報が広まっているのを目にすることも多くなりました。藁にもすがる思いでインターネット上で検索をすると、自分にとって都合の良い記事ばかり目に入ってしまいます。信頼できる情報源から、正しい知識を得るという判断力を失わないよういに気をつけたいものです。

ミュージシャンはジストニアになってしまったとき、どのような道を選ぶのか自分自身で選び、切り開いていかねければなりません。また、ジストニアになっていないミュージシャンもジストニアの知識を持っておくことが必要だと私は考えます。

なぜなら、ジストニアは予防できると考えているからです。ジストニアの予防については、また別の記事でご紹介したいと思います。



まとめ

ミュージシャンのジストニアは、局所性ジストニアという、脳と筋肉をつなぐ回路に異常をきたす神経疾患です。治療法は確立されておらず、ジストニアに苦しむミュージシャンはたくさんいます。自分にあった治療法で、希望を持って治療をしていくのか、ジストニアと付き合いながら演奏をして生きていくのか、どんな道を選ぶのかは自分次第です。

ジストニアのミュージシャンが、自分にとっての正しい判断を後悔なくできることを願っています。このブログでは、私自身の治療の記録も綴っていきますので、参考にしてくだされば幸いです。