ミュージシャンのジストニアは、指や手首が固まったり丸まったりしてしまい、思うようにコントロールができなくなり、楽器の演奏に支障をきたすという病気です。
熟練のミュージシャンに現れることが多い病気で、プロのミュージシャンの100人に1人がジストニアにかかっているというデータがあります。ミュージシャンのジストニアは、絶対的な治療法が確立されていないことから、難治病といわれています。
ミュージシャンのジストニアは筋肉や骨に特別な異常は見つからず、はっきりとした原因は不明だと言われています。
動作異常は楽器の演奏時にのみあらわれ、日常生活には支障をきたしません。しかし、楽器を演奏することを生業としているミュージシャンにとって、楽器の演奏が思うようにできなくなることは、命を奪われるような心地でしょう。
ミュージシャンである筆者も、ジストニアを発症しています。この記事では、ミュージシャンのジストニアについて、経験談も踏まえて正しい知識をお伝えしていきます。
ミュージシャンのジストニアとは
ミュージシャンのジストニアは、指や喉などの身体の一部に症状が現れることから、「局所性ジストニア」または「フォーカルジストニア」と呼ばれています。
ミュージシャンのジストニアは神経疾患のひとつです。症状としては、動かそうとする筋肉と相反する動作をおこなう筋肉(拮抗筋)が同時に収縮を繰り返すことにより、異常動作が起き、自分の意思通りに指などが動かなるというものです。
脳が指令を出し、それに筋肉が反応するといった訓練が繰り返され、楽器の演奏技術は身についていきます。超絶技巧が可能になる仕組みは、脳の指示と筋肉のワイヤリング(回路のつながり)がキーポイントとなっています。
ミュージシャンのジストニアは、なんらかの間違った形でワイヤリングされた結果として、異常な動作が起きると言われています。
・具体的な症状
筆者の場合(クラリネット)、左手の薬指を抑えると、小指がこわばってしまい、自分が思うキーを抑えられないという症状があります。楽器を持たないで同じ動作をしても、異常は起こりません。ミュージシャンのジストニアの患者の特徴として、楽器を持たずにその動作をおこなっても異常動作が起きないということがあります。
・発症の原因
発症の原因は特定されていませんが、ジストニアになるミュージシャンは、高いレベルでの集中的な練習を長時間おこなっていることがほとんどです。
私自身もそうでしたが、ジストニアの症状が現れはじめたとき、多くのミュージシャンは「うまく演奏できないのは自分の練習不足が原因」だと思って練習時間を増やしたり、一箇所をなんども繰り返して集中的に練習したりしてしまいます。
しかし、ジストニアが原因の場合、そういった過剰な練習は逆効果で、症状をひどくさせる原因のひとつとなってしまいます。
ミュージシャンのジストニアの治療法
ミュージシャンのジストニアは、この治療をおこなったら絶対に治ります!という治療法がありません。多くのジストニアのミュージシャンはこの事実に絶望してしまうでしょう、しかし、現在さまざまな治療法が考えられています。
【ミュージシャンのジストニアは何科にかかれば良い?】
ジストニアは脳神経の疾患なので、神経科が専門となるでしょう。しかし、様々な分野からミュージシャンのジストニアの治療法が考案されているので、神経科以外にも、整形外科などでもジストニアの治療をおこなっているところがあります。
ミュージシャンのジストニアの治療法には以下のものがあります。
・内服薬
・リハビリ類
・ボツリヌス注射
・脳への電気刺激
・外科手術
いずれの治療法も、確実に治るというものではありませんが、ジストニアを完治した人はいます。焦ることなく治療に対して向き合うことが大切です。
ジストニア発症の原因が、無理なフォームで演奏していたことからくる局所への負担だということは多いです。病院に通うだけが治療ではなく、楽器演奏時の身体の使い方を見直すこともジストニアの症状を和らげるには必要なことだと考えられています。
ジストニアを公表している著名なミュージシャン
最近、著名なミュージシャンがジストニアにより活動を休止せざるをえない状況になってしまったというニュースをよく目にします。完治した方も含め、以下の方々はジストニアを公表されている著名なミュージシャンです。(敬称略。wikipediaより引用。)
- IMAJO(サイキックラバー) ギタリスト
- 金子隆博(米米CLUB) サクソフォーン奏者
- 熊谷徳明(元カシオペア・TRIX) ドラマー
- 小渕健太郎(コブクロ) 歌手、ギタリスト
- 白鳥雪之丞(氣志團) ドラマー
- 田中義人 ギタリスト
- 山口智史(RADWINPS) ドラマー
- 庄村聡泰 ([ALEXANDROS]) ドラマー
- 田島智之 (元Aqua Timez) ドラマー
- YOSHIAKI(175R) ドラマー
以上の方々はほんの一部で、ほかにもジストニアに苦しむミュージシャンはたくさんいます。
私がジストニアを公表したときに、たくさんの励ましのお言葉をいただいたのですが、その中で「実は自分もジストニアです」「公表していないけれど、あの方もジストニアなのでアドバイスをもらえると思います」といったことをたくさん聞きました。
自分がジストニアになってはじめて、ジストニアに苦しむミュージシャンはたくさんいるということを知りました。
ジストニアのミュージシャンの精神状態
ミュージシャンのジストニアは精神的なストレスからくるものと言われていますが、立派な身体の病気です。
もう一度言います。ミュージシャンのジストニアは病気です。
命に別状がなく、日常生活は問題なくおこなえることから、ミュージシャンのジストニアは重大な病気だという理解を得られないこともあります。
しかし、楽器を使って音楽を奏でることを生業、そして生きがいにしているミュージシャンにとって、思うように楽器演奏ができないことは命をも奪われた心地です。
治療法が確立していない、そして長期に渡ることが多いことから、治療のゴールが見えず、精神的にまいってしまうミュージシャンも少なくありません。
近年はインターネット上で知識を得られるようになり、ミュージシャンのジストニアについての情報も多くなってきています。
一方で、間違った見解や確かではない情報が広まっているのを目にすることも多くなりました。藁にもすがる思いでインターネット上で検索をすると、自分にとって都合の良い記事ばかり目に入ってしまいます。信頼できる情報源から、正しい知識を得るという判断力を失わないよういに気をつけたいものです。
ミュージシャンはジストニアになってしまったとき、どのような道を選ぶのか自分自身で選び、切り開いていかねければなりません。また、ジストニアになっていないミュージシャンもジストニアの知識を持っておくことが必要だと私は考えます。
なぜなら、ジストニアは予防できると考えているからです。ジストニアの予防については、また別の記事でご紹介したいと思います。
まとめ
ミュージシャンのジストニアは、局所性ジストニアという、脳と筋肉をつなぐ回路に異常をきたす神経疾患です。治療法は確立されておらず、ジストニアに苦しむミュージシャンはたくさんいます。自分にあった治療法で、希望を持って治療をしていくのか、ジストニアと付き合いながら演奏をして生きていくのか、どんな道を選ぶのかは自分次第です。
ジストニアのミュージシャンが、自分にとっての正しい判断を後悔なくできることを願っています。このブログでは、私自身の治療の記録も綴っていきますので、参考にしてくだされば幸いです。